グリコアワー

2月16日、土曜日、音楽、映像、絵、写真、工芸などのジャンルを越えたアーティストたちがあるイベントに集まった。その名も、「グリコアワー」。キャッチフレーズは、「一粒でいっぱいおいしい」。参加したアーティスト、観客のお口の中に、いろんな味がひろがったに違いない。観客動員約180名。この大いに盛り上がったイベントのレポートとこのイベントが示した盛岡のインディーズシーンの可能性を考えていきたい。

他ジャンルのアーティストが集まる

 このイベントは、Psykopippiというバンドのシズヨさん、サトコさんが中心になって企画した。二人は、「このライブは、バンドをいくつか集めてLIVEをするだけではなく、ひとつのジャンルにとらわれずに、様々なジャンルのartistやcreatorの人たちと一緒にイベントをやってみよう!」という思いで、このイベントを考えた。また、二人は、「ただ、そういう人たちに出会いたかったから」と笑顔で語る。

 昨年、初めて開催された盛岡自主制作映画祭
MOVIN’3
やこれまでの音楽ライブなどでは、同じジャンルのアーティスト・クリエイタが集まって一緒にイベントを行うということは、よくあることだった。しかし、ジャンルを越えて、それも生でパフォーマンスするアーティストから、作品を持ち寄るアーティストが若干の表現方法の違いはあれども、同じ会場に集まるというのは、盛岡ではあまり無かった。このイベントは、準備段階から、本当に魅力的で、ワクワクさせるものだった。

 もちろん、いろんなジャンル集まるため、苦労はあった。まず、出演アーティストを募るのに、オーガナイザ陣は苦労したようだ。音楽系は、これまでのつながりで交渉できたようだけど、他のジャンルの、例えば絵とか写真とか、それこそ未知の世界に踏み出すわけだから、どこにあたればアーティストに出会えるのかわからなかったりと、大変だったようだ。

 今回のイベントでは、音楽、映像、ダンサーなどはホール内のステージでパフォーマンスを行い、絵、写真、工芸などのアーティストはホール前のロビーとタウンホールがある地下に降りていく階段の踊り場などで展示や販売を行った。

 ボーダレスという言葉が、叫ばれて久しい。しかし、他ジャンルのアーティストが出会って、一緒に活動するというのは、今までの盛岡では、目に見えるような目立ったものではなかった。その要因として、多ジャンルのアーティストが出会える場がなかったとことが大きいと思う。そこで、意気投合すれば、きっと、そこから何かが生まれる。これから、こういうイベントのような「場」というのは、重要なものになってくるのは、間違いない。

 映像に関して言うと、使えるプロジェクタが盛劇になく、オーガナイザの知人を通して借りた。できれば、調整室からプロジェクタを出せるような設備が欲しい。今後、映像が絡むイベントどんどん増えて行くから、ぜひ、整えて欲しい。

バンド、生のパフォーマンス

 僕は、今回、初めてバンドの人たちと同じステージに立った。僕は実際にステージには立っていないのだが、同じステージで表現を行った。

 でも、僕は、負けていた。そう感じた。ノって踊りながら、そしてジャンプしながら、僕は、なんだろうと、ずーと考え続けていた。

 アグレシッブな音を聞かせてくれた熊猫侍(パンダザムライ)とか、ノジィーな音で音の絨毯を作ってくれたSCRAP BURGER、刺激的な音を決めてくるDJ
CHOKU&カツ、絶妙なMCと弾き語りを聴かせてくれたサトウ トシヒコ、人を包み込み、一点へ誘い込むような第六師団、音楽って楽しくて弾けるものだと感じさせるPyskopippi。

 いずれも、ステージから僕の魂にパンチを繰り出してくる。何だろう。そのパンチは。僕には、そのパンチが出来ているのだろうか。

 イベント前に、空気公団イノトモのカバーをしていると聞いていて、ずーと、音を聞きたいと思っていた第六師団。岩渕曰く、「エーテルが出ている」。その演奏を聴いて、僕は、泣いてしまった。ボーカル&ピアニカ(!)、ウッドベース、アコギという3ピースが奏でる音楽は、暖かくも繊細な光溢れる光に導かれるような音だった。

 この第六師団のライブには、丸山 安曇(映画「in the box…」)と高橋 輝(映画「THE FAILED
MAN」)の二人が映像演出を担当した。照明を全部落として、プロジェクタから出る映像の光をメンバに当ていた。実写をスケッチ調に加工した映像とスナップ的な街の風景の映像が、雰囲気を出していたと思う。こういうやり方もあったのだと、感心。第六師団とは、ぜひ、何かを一緒にやってみたい。

 バンドのレベルは、本当に高かった。今までバンドのライブというと、学園祭のへなちょこバンドの演奏しか聴いて事が無くて、半分あきらめていたんだけど、今回はすごかった。今までの自分の考え方を正さなければ。

みんなの色

 映像組は、岩渕 崇(映画「ひとつ屋根」、演劇 トラブカフェシアタ「封身亜身」の映像担当)、前出の丸山安曇、今回デビューのue.こと上村浩孝、そしてアラカワケンスケの4人が映像作品を持ち寄った。

 昨年の盛岡自主制作映画祭 MOVIN’3では、上映作品の雰囲気が似ているという声があって、何でだろう?と思っていたのだが、今回は、四者四様だった。

 映像の出番が、激しい感じのSCRAP BURGERの後だったので、比較的激しい僕が一番手に。今回は、最最新作の「映像についての言葉(WORDS)」、完成が遅れていた最新作「RELATION」を僕は流した。やはり、「映像について…」が好評だった。お気付きの方もいらっしゃると思いますが、映像の中に出てくる文章は、-edなことに出てくる文章です。「今」の僕が作った「映像について…」は、自分でも好きだ。

 その後、ue.→丸山安曇→岩渕崇。ue.の作品は、「myself」と題し、自分を振り返っていくという作品。今作品が、彼のデビュー作品。考えてみると、彼のデビューという生涯に一度しかない時を一緒に過ごせたことは、素晴らしい。

 しかし、トラブルがあって、彼の作品の音が出なかった。急遽、CHOKUさんに生で音を付けてもらった、これが意外といける。

 安曇作品は、実験作品とも言える作品。同じアングルで何度か撮影し、それを合成するという作品。確かに、同じ空間に数人が存在しているのだが、それは違う時間に行われたこと、でも、確かに同じ空間にいる。おもしろい。このプロジェクトは、次にもっとおもしろいアプローチを示す予定。今後の展開が楽しみ。

 僕自身は、岩渕作品でノックアウト寸前に持っていかれた。初めて、敗北宣言。今回の作品は、映画「ひとつ屋根」の主演の加藤三竜さんとバンド「ゴージャス☆」でツインボーカルをしている綾乃さんが出演しているショートムーヴィー。音楽は、同じく「ひとつ屋根」で組んだ「ゴージャス☆」の大月政典さんが担当。「スケルトンタイプの車」という不思議な題材で、女の子の内面、いや拒絶したい僕らの内面を表現していた。音楽も良かったし、映像が良かった。やられた。僕は、そう思った。

 今回は、とにかくいろんな色の作品が集まった。相談したわけでもないのだけど、うまくばらけた感じ。来年の映画祭も、こんな風にいろんな作品が集まると、観客のみなさんも満足していただけると思う。

「俺の魂に触れたことはあるか?」

「その前に、君は僕の魂に触れたことはあるか。そして、君は裸でいるか?」

魂から来るもの

 このイベントで、僕はそんなことを考えた。なんか、自分はちまちましていたんじゃないかなって。「映像についての言葉」は、僕の想いが出せたと思うんだけど、なんだろう、ここ数年の自分は、何かにあがいているような気がする。

 ノックアウト寸前の僕を救ったのは、Psykopippiの演奏だった。リハの時から、ボーカルのサトコさんの唄は、裸というか、聞いている僕に魂がむきだしで来る。もちろん、本番はもっと。

 何だろう。僕には無いのか。それとも、どこかに忘れてきたのか。

コラボレーション、魂のやりとり

 グリコアワーは、本番を迎える前から、既に2回、3回と続いていくイベントにしたいと、参加する人々が口を揃えていた。本番を終えた今、多くの人が一層強く思っていると思う。きっと、そこには仲良しクラブじゃなくて、お互いが刺激し合っている空間があるから、そう思えるのだろう。そして、その空間が、観客にも影響を与えていく。研究室の先輩が、当日、来てくれた。東京とかに行っても、また行ってみたい。元気をもらった感じと言っていた。きっと、その連鎖反応が、良いものを作っていく、良い社会を作っていくのではないだろうか。

 次回のグリコアワーは、第六師団+安曇やDJ+生楽器みたいなセッションが、どんどん増えて来るんじゃないかな。いや、その方がきっとおもしろいと思う。

 既に僕の中では、この人とこんな事をしてみたいというのが、頭の中を駆け抜けている。次回作は、盛岡を中心としたインディーズミュージシャンによるコンピレーション・サウンドトラックにしたいと考えている。

 今年は、「コラボレーション元年」と名付けたい。グリコアワーは、僕にそんな変化を教えてくれた。殻に閉じこもっていても、何もないよ。確かに、答えは君の中にある。だけど、答えへとつながる要素は、接点の中にある。

 盛岡のインディーズシーンは、結構熱い。それを世に伝えていって、さらにレベルアップ、ヒートアップをしなければ。僕は、そんな使命感を今、ひしひしと感じている。

 あっ、本当に転換点かも知れない。

 グリコォー!!

2002.2.19

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